来ないらしい」
彼はガタガタと音を立てて、どうにか壊れた鎧戸を無理に締める事が出来ました。彼は又元の部屋に戻りました。そうして、肘付椅子の上に腰を下して、机の上の葉巻を取上げて、悠然とくゆらし始めましたが、どう云うものか、何となく気が落着かないのです。盗んだ秘密書類は安全な所に隠してあるし、今飛込んで来た大胆な男は地下の牢に入れたし、別に気にかかる事がある筈《はず》がないのですが、どうも、何事か起りそうな気がして、変に不安なのです。シムソンはキョロキョロと部屋の中を見廻しました。と、彼はアッと云う叫び声を上げて、顔色を変えました。部屋の隅には、いつの間に忍込《しのびこ》んだのか、一人の少年が立っていて、ピストルをじっと向けているではありませんか。
「手を挙げろ」
少年は叫びました。シムソンは口惜しそうに両手を高く挙げました。少年はシムソンの傍に寄って、彼のポケットからピストルを取上げました。
「貴様はお父さんのはかりごとにかかったんだ。お父さんはわざと知れるように窓を破って、ここへ入ったのだ。貴様達がお父さんに気をとられている暇に、僕はこっそり後から入ったのだ。貴様は今頃になって気
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