がついて、破れた窓を調べに行ったが、もう遅い。さあ、お父さんを出せ」
「君は先刻《さっき》来た男の子供か。なるほど、そう云えばよく似ている」
 シムソンは両手を高く挙げながら云いました。彼は何かしゃべっているうちに、少年が少しでも油断して隙を見せたら、飛《とび》かかってピストルを奪い取ろうという考えなのです。しかし、少年はその手には乗りません。
「そうだ。僕は仁科少佐の子供で道雄と云うのだ。さあ、ぐずぐず云わないで、お父さんを出せ。云う通りしないと射《う》つぞ」
「ハハハハ、日本人だけあって、子供でもなかなか勇敢だ。父を救けだそうとするのは頼もしい。アハハハハ」
「な、何を笑うのだ」少年はきっと眉《まゆ》を上げました。「よしッ。こうなれば貴様を射ち殺してから、お父さんを助け出すッ」
 道雄少年は将《まさ》に猛然とピストルの引金を引こうとしました。シムソンはうろたえながら叫びました。
「ま、待て。そ、そんな乱暴な事してはいけない。私を殺しては、君のお父さんを助け出す事も、それから秘密書類をとり返す事も出来ないぞ」
「えッ」
 急所をつかれたので、さすがの道雄少年も、ぎょッとして、引金にか
前へ 次へ
全23ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
甲賀 三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング