けた手をゆるめました。その隙を見たシムソンは、急に一歩前に出て、机の上の釦《ボタン》に手をかけました。
「射つな」シムソンは急いで叫びました。「射ったら、私はこの釦を押す。この釦を押したら、君のお父さんは最後だ」
「えッ、何だって」
「この釦を押すと、電気仕掛で地下室へはドウドウと水が出るのだ。地下室は見る見る水で一杯になってしまう。地下室は鉄筋コンクリートで、窓は一つもない。君のお父さんはおぼれ死んでしまうのだ」
「えッ」
 道雄少年はサッと顔色を変えました。彼のピストルを持った手は、ワナワナとふるえ出しました。
「フフン」シムソンは勝誇ったようにあざ笑いました。「どうだ。この私に手向いしようとしても無駄な事が分っただろう。さあ、そのピストルをこちらへよこせ。よこさないと、この釦を押すぞ」
「嘘だ。嘘だ」道雄少年は必死に叫びました。「そ、そんな事は貴様の出鱈目《でたらめ》だ。そんなおどかしには乗らないぞ」
「出鱈目? よろしい。そう云うなら、出鱈目か出鱈目でないか見せてやる」
 シムソンは机の上の釦を押しました。
「さあ、耳を澄まして聞いてごらん。地下室に水の流れ出す音が聞えるから」
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