。そうして、道雄少年の顔を睨《にら》みつけながら、机の上のピストルに手をかけようとしました。すると、不意にうしろから、
「シムソン、動くな」と云う声がしました。
 シムソンはハッと振り向くと、そこには思いがけなく、仁科少佐が悠然と立って、ピストルの筒口を向けていました。
「アッ」
 シムソンは口惜《くや》しそうに、唇をブルブル顫《ふる》わせながら叫びました。
 道雄少年は急に笑いだしました。
「ハハハハ。シムソン、馬鹿だぞ、貴様は。この卓上電話は見た所はどうもないが、僕は貴様が窓の所に行った隙《すき》に、この受話器を掛ける所に、ちょっとした木片《きぎれ》をかっておいたのだ。だから、この掛ける所は上に上って、受話器を外してあるのと同じ事になっていたのだ。その証拠には今電話が掛って来た時に、リンリンと鈴《ベル》が鳴らないで、ジージーコツコツと小さい音がしたのだ。電話の受話器が外してあったらどうなると思う。この部屋で話す事は、交換局へ筒抜けではないか。交換局はどこへでも好きな所へつなぐ事が出来る。貴様は自慢らしく、書類を警視庁に保管してあると云って、智恵を誇ったが、この電話が警視庁につないで
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