びっくり》して振り向いた。和尚《おしょう》さんだろう。背の高い恐い顔をした坊さんが立っていた。
「何をしているんだ」
坊さんらしくない横柄《おうへい》な声で訊いた。僕はどう云おうかと思っていると、縁の下からあとずさりをしながら森君が這《は》いだして来た。洋服中泥だらけだ。僕は森君があとずさりで這っている姿がおかしかったので、クスリと笑った。然《しか》し、坊さんは笑おうともしないで益々《ますます》恐い顔をして、今度は這い出したばかりで、ズボンの泥を払っている森君の方を向いて云った。
「何をしているのか」
「僕この上から五十銭銀貨を落したので、潜り込んで探しているんです。中々見つからないのです」
森君が弁解すると、坊さんは少し顔を和《やわら》げて優しくなった。
「なに、五十銭銀貨を落したって。そそっかしい子供だなあ。小父さんが五十銭出して上げるから、縁の下に潜るのはお止《よ》し」
そう云って坊さんは懐中《ふところ》から財布をだして、五十銭銀貨を森君に渡そうとした。森君は手を振って受取らなかった。
「好《い》いんです。僕が悪かったのですから。もう縁の下なんかに潜りません。さようなら」
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