森君は帽子を取ってペコンとお辞儀をして、坊さんが呆《あき》れている暇にさっさと歩きだした。僕も少し呆れながら森君の後について行った。
お寺の門の外へ出ると、森君は又妙な事を云い出した。
「この辺に電灯会社の出張所はないかなあ」
暫くブラブラ歩いているうちに、十軒ばかり家が並んでいる所へ来た。その外《はず》れの一軒に電力会社|工夫《こうふ》詰所《つめしょ》と書いた札が出ていた。森君はその中にはいって行った。中には恐い顔をした工夫が二三人いたが、森君は平気だった。森君は全く勇敢だ。
「小父《おじ》さん」森君はなれなれしく云った。「この近所に動力を使っている所がありますか」
「ああ、あるよ。この向うの精米所《せいまいじょ》と、それからこっちの機織場《はたおりば》と。妙な事を聞くね」工夫の一人は不審そうに森君を見た。金ボタンの制服を来た小さい中学生がだしぬけに変な質問をしたのだから、工夫の驚いたのは無理がない。
「有難う。その他にありませんか」
「その他には、この近所にはないね」
「この頃盗電はありませんか」
「あるよ。盗電があって困っているんだ」
工夫はびっくりしたように森君の顔を眺
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