びっこを引かなくても好《い》いぞ」
 森君はそう云って、犬の脚を離そうとしたが、その時にオヤと云って首を捻《ひね》った。見ると、脚の裏に何だか赤黒いものがベットリついている。
「血じゃないか。森君」
 僕がびっくりして云うと、森君は首を振った。
「血じゃないよ。何かくっついているんだよ。変だなあ」
 森君はポケットから紙を出して、犬の脚の裏をちょっとこすって見てから、脚を放した。犬は暫《しばら》くクンクン云って尾を振りながら森君にジャレていたが、やがて一目散にどこかへ駆けて行った。
 森君は何か考えながら黙って歩き出した。森君が考え事をしている時に、うっかり話しかけると怒るので、僕も矢張《やは》り黙って肩を並べて歩いて行った。
 一軒の百姓家の前に来ると、十か十一位の女の子がぼんやり往来を眺めながら立っていた。森君は何と思ったか、女の子の傍に寄って訊《き》いた。
「このへんにペンキ屋さんがある?」
 女の子は首を振った。森君は又訊いた。
「飛山さんて家どこ?」
 すると、女の子は急に顔をしかめて、私達を軽蔑《けいべつ》したような眼でジロリと見たかと思うと、ぷいと向うの方に行ってしまった
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