呼んで可愛がる。妙なもので、犬の方でも可愛がって呉《く》れる人は分ると見えて、時にはわんわん吠えて逃げて行くのもあるけれども、大抵《たいてい》の犬は尻尾《しっぽ》を振りながら森君の傍《そば》に寄って来る。
 森君は舌を鳴らしながらその犬を呼んだ。真白のおとなしそうな犬で、おどおどしながらも、嬉《うれ》しそうにヒョコヒョコと森君の傍に寄って来た。見ると、可哀相《かわいそう》にびっこを引いている。森君も直ぐ気がついた。
「オヤ。びっこを引いているじゃないか。どうしたんだい。ちょっと脚をお見せ」
 森君は往来にしゃがんで犬を抱えるようにして、びっこを引いている脚を持上げて、丁寧に調べた。
「やっぱり蝨《だに》がついているんだ。可哀そうに。脚の爪の間に蝨がつくと、自分では取れないからな。よしよし取ってやるぞ」
 森君は犬の脚を高く上げて、爪の間に西瓜《すいか》の種ほどの大きさに脹《ふく》れている蒼黒《あおぐろ》い蝨をつまんで、力一杯引張って漸《ようや》くの事で引離して、地面に投げつけると踏み潰した。その間犬は何をされているのか分っていると見えて、眼を細くしてじっとしていた。
「さあ、これでもう
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