ていたら、機械を使うのだから、何か鍛冶屋に注文してはいないかと思ったから訊いて見たんだ。そうしたら、お寺に要りそうもないネジ廻しを注文していたと云う事が分った。これでいよいよお寺が怪しくなったので、もう一度お寺に帰って縁の下に潜りこんだのさ。そうして、ずっと奥の方に入って見ると、暗くてよく分らないけれども、大きな穴が掘ってあって、その中に機械らしいものが見えた。その時に君の来たッ! と云う声が聞えたので、急いで飛出したんだが、その時に傍に転げていた瓶を拾って来た。外へ出て見たら、それは劇薬の塩酸の空瓶《あきびん》だった。塩酸は印刷に使う銅の板を磨いたり、腐蝕《ふしょく》させて、いろいろの文字や模様を彫り込むのに使うのさ。駐在所まで追かけて来た坊さんは僕にすっかり見破られたと思ったので、あわてて逃げ出したんだよ」
 僕は感心して森君の顔を見た。全く森君はいろんな事を知っているのには敬服する。
 お寺の縁の下は直ぐ調べられたが、森君の云った通り中ほどに大きな穴が掘ってあって、そこに精巧な印刷機械が据えつけてあった。印刷機械は電気で動くようになっていて、電気は勝手に線を引いて盗んでいた。大き
前へ 次へ
全20ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
甲賀 三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング