て見る気になったのさ。そうしたら、二匹の犬がお堂の縁の下へ駆け込んだろう」
「うん」僕はうなずいた。「それで、君はわざと五十銭銀貨を落して、縁の下へ潜りこんだのだね」
「そうなんだよ。けれども、実は僕はあの時には未《ま》だ何にも分らなかった。所が、お寺の和尚さんが僕をひどく叱りつけて、銀貨を探していると云ったら、銀貨をやるから縁の下には潜るなと云ったろう。あの時に僕はふと怪しいと思い出したんだ。和尚さんの様子が只事《ただごと》じゃなかったからね。二匹の犬はどこで印刷に使う赤紫のインキを踏んだのか知らないけれども、仮《か》りにお堂の下で踏んだものとしたら、そして和尚さんがお堂の下を見られるのを嫌《いや》がっているとしたら、大いに怪しくなって来るじゃないか」
「それから君は電灯会社の詰所へ行ったね」
「ああ、僕はね、もしどこかで紙幣《さつ》を印刷していたら、きっと機械を動かすのに電気を使うだろうし、その電気は黙って盗むに違いないと思ったから工夫の詰所へ行って聞いて見たのさ。そうしたら僕の思い通りだったんだ」
「それから鍛冶屋へ行ったのは」
「もし、僕が怪しいと思った和尚さんが、贋紙幣を拵え
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