なお堂の縁の下だし、廻りは広々と明いているし、お寺がすでに一軒ポツンと離れているのだから、少し位機械の音がしても聞えはしなかったのだ。それに誰だってお寺の坊さんと云えば尊敬しているのが常だから、そんな悪い事をしようとは思わなかったので、中々知れなかったのだ。
 坊さんは縁の下の秘密が分ったので、すっかり白状してしまった。外にも四五人仲間があって、中には印刷の職工や画工や彫刻師があったが、みんな捕まってしまった。だんだん調べてみると、主謀者は他にあって、坊さんは無理に引込まれたのだと云う事だった。飛山君のお父さんは家が貧乏で、お寺からお金を借りたり、いろいろ世話になっていたので、今度も、坊さんから贋紙幣と知らないでお金を借りたのだったが、警察へ連れて行かれた時に恩になった坊さんの名を出すまいと、どんなに調べられても黙っていたのだった。飛山君のお父さんは恩を忘れないで感心には感心な人だけれども、そう云う悪い事をする人の世話になったのはいけないとお母さんがおっしゃった。だから人は無闇《むやみ》に他人の世話にならないで、独立してやって行けるようにならなくてはいけませんとおっしゃった。
 森君は
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