るので、兌換券と云うのは、そこへ持って行けば金貨と兌換して呉れるからで、兌換と云うのは換える事だそうだ。あんな紙だけれども日本銀行へ持って行けばいつでも金貨と換えて呉れるから、それだけの値打があるので、贋紙幣だったら紙だけの値打しかないのだそうだ。だからそんなものを無闇《むやみ》に造って使われたら大変なので、重い罪にしてあるそうだ。この紙幣《さつ》の発行は日本銀行だけれども、拵《こしら》えるのは印刷局だそうだ。造幣局と云うのは、金貨や銀貨や銅貨を造る所だそうだ。紙幣《さつ》は贋《にせ》が中々出来ないように、紙から特別に拵えて、意匠やら模様やら色やら骨が折ってあるので、ちょっとした事では贋紙幣なんか出来るものではないそうだ。
飛山君の家を訊いたら女の子が逃げ出したので、森君と僕とは又歩き出した。すると向うの方から白い犬が尻尾《しっぽ》を振りながら飛んで来た、見ると、先刻森君が脚の蝨《だに》を取ってやった犬だ。その犬の他に二三匹仲間の犬がいてしきりに、ジャレ始めた。
森君は例の如く舌を鳴らして、他の犬をみんな呼び寄せたが、何と思ったか、一匹ずつ抱いては脚を上げて脚の裏を調べた。最後に一匹少し大きい茶の斑《ぶち》の強そうな犬は、わんわんと吠えて、中々傍へ来そうになかったが、森君は例の可愛《かわい》い白い犬を囮《おとり》にして、とうとう傍に来させて捕まえた。前脚をあげると、その犬にはベットリと例の赤黒いものがついていた。
森君が余り自由に犬を扱うので、面白くなったと見えて、さっきの女の子が又傍に寄って来た。森君は白い犬を指《さ》しながら訊いた。
「これ、どこの犬?」
「藤山さんとこんだ」
「これは」森君は茶の斑犬《ぶちいぬ》を指した。
「お寺んだ」
「お寺? どこにあるの」
「この先の大きな銀杏《いちょう》のあるお寺だあ」
森君は犬を放して起上《おきあが》った。
「風岡君。お寺へ行って見ようや」
二
僕達は大きな銀杏《いちょう》の木を目当にお寺に行った。白と茶斑の犬はジャレながらついて来た。
見上げるような大きい太い銀杏は墓場を仕切っている土塀《どべい》の傍に突立っていた。土塀は大方崩れかかっていた。墓場から少し離れた所に本堂があった。本堂は可成《かなり》大きくて、廻りがずっと空いていた。本堂は随分古びていたけれども、中々しっかりしていた。前側の
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