村にはそれがひどく狡猾に見えて不愉快だった。
 重武には二川家で度々会っているし、野村と重明との関係を知らない筈はないのだが、野村は重明の死んだ事を知らして来ないのは、この叔父の指金のような気がするのだった。野村の方で好感情を持っていなかったので、重武の方でも、表面は兎に角、腹では余り野村を喜んでいないらしいのだ。そんな事で態《わざ》と通知しないに違いない。
(二川家も、今後はあの叔父に自由にされるのかな)
 と思うと、野村は一層淋しい気持になった。重明にもっと力になってやらなかった事が、益々後悔されるのだった。
 通知は貰わなくても、夕刊の記事を見た上は黙っている訳には行かなかった。叔父がもし自分を邪魔にしているのなら押しかけて行くのは気が進まなかったが、といって知らん顔はしていられないので、野村は支度を始めた。
 そこへ恰度《ちょうど》外出中だった母が帰って来たので、夕刊を見せると、母は、
「まア」といって吃驚《びっくり》しながら、「でも、知らせて来ないのは変ね」
 といって、首を傾けた。

 家を出て円タクを呼留めて、車中の人になると、野村の頭には、之という理由《わけ》もなく、幼
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