にすませてあるが、死んでいるのを発見された時間は、午前十時と明記してある。今までに野村の所へ通知が来ないのは可笑《おか》しいのだ。
尤も、子爵家では喪を隠しているというから、発表をさし控えているのだろうが、それにしても、生前の唯一の友人である野村に知らして来ないのは変だ。過失死でなく、自殺とすれば、恐らく野村に宛《あ》てた遺書がありそうなものである。
野村は重明の叔父の二川重武がでっぷりした身体で、家の者を指図している姿を思い浮べた。両親もなく、妻を娶《めと》らずむろん子供のない重明には、叔父の重武が唯一人の肉親だった。重武は重明の祖父重和の妾腹の子で、父の重行には異母弟に当っていた。重行とは年が十ばかり違って、従って重明とは鳥渡《ちょっと》しか違わなかった。今年五十二三歳であるが、重明とは似《にて》もつかない、でっぷり肥った赤ら顔の、前額《まえびたい》が少し禿げ上って、見るから好色そうな男だった。
重明はこの叔父をひどく嫌っていた。野村もむろん重武は好かなかった。若い時にひどく放蕩をしたというだけあって華族の出に似合わず、世馴れていて、中々愛想がよく、人を外《そ》らさないが、野
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