その焦燥した態度は正視に堪えないほどだった。いよいよ発狂か、それでなければ自殺、二つのうち一つではないかと、野村は恐れていたのだ。
 それが、雪渓発掘に着手してから、十三日目に自殺になって現われたのだ。
 野村は唯一人の友人として、二川の自殺を阻止することの出来なかった事に、自責の念を感じた。彼が二川を愛することの足りなかった事が、犇々《ひし/\》と彼の心を責めた。
 と同時に彼はふと可成《かなり》重大な事に気がついた。それは彼が二川家から重明の自殺の報知を受けない事だった。
 野村はもう一度夕刊を見直した。

[#ここから2字下げ]
 ――乗鞍岳の大雪渓の発掘を始めて、問題を惹《ひ》き起していた二川子爵は、極度の神経衰弱で苦しんでいたが、今朝十時寝室で冷くなって死んでいるのが発見された。死亡の原因は多量の催眠剤を呑んだ為らしく、それが自殺の目的で呑まれたのか、過失によるものか不明であるが、恐らく前者であろうと見られている。尚《なお》子爵家では自殺説を否認し、喪を隠している。
[#ここで字下げ終わり]

 流石《さすが》に華族たる身分に遠慮してか、余り煽情的な書方をせず、極《ご》く簡単
前へ 次へ
全89ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
甲賀 三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング