連れ込んだ。
「君、最後に太田医院から薬を貰って来た時に、何か変った事が起りはしなかったか」
「いゝえ、別に」
「例えば、人に突当られたとか、何か貰ったとか、話かけられたとか――」
「いゝえ、そんな事はございません」
「では、途中でどこかに寄りはしなかったか」
「鳥渡買物に寄りました」
「なにッ、買物に。そこで君は薬包をどこかへ置きはしなかったか」
「いゝえ」
「ひょっと落して、人が拾って渡したようなことはなかったか」
「いゝえ」
「では、初めからずっと持ち続けていたんだね」
「はい」
「薬包はむき出しに持っていたのかね」
「いゝえ、松屋の風呂敷に包んで持っていました」
「松屋の風呂敷というと、あそこでお得意先にお使いものにしているものだね」
「はい、錦紗《きんしゃ》の風呂敷で松に鶴の模様がついております」
「ふうむ」
野村はじっと考え込んだ。
千鶴は漸く野村の考えている事が分って来たので、心配そうに野村の顔を見上げて、やはり何事か考えていたが、
「野村さま。アノ日には何事もございませんでしたが、その前には時々変な事がございました」
「え? ど、どんな事が――」
「二日目毎にお薬を
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