うに見せかけたのに違いない。何故なら太田医師は二服とも重明が呑んだものと信じているから、彼が駆けつけた時には、そうした状態になっていたのに相違ないのだ。
 だが、重武は一体いつ、どうして薬をスリ替える事が出来たろうか。

 野村は余り長く千鶴と対談していては、重武に益々怪しまれると思って、部屋を出て何気ない顔をして、棺の飾ってある部屋に行って、そこに坐った。
 けれども、彼の頭はどういう経路で、催眠剤が毒薬に変ったか、そればかり考えていた。
 太田医院の薬剤師を買収する、そんな事は考えられない。重武がそっと太田医院の薬局に忍び込んで、催眠剤の這入っている瓶の中味を、毒薬に変える、そんな事も出来そうにないのだ。第一後ですぐ発見される恐れがあるし、太田医院は整然としていて、無闇に薬局に這入ることは出来ないし、それに重武にそれだけの薬学の知識があろうはずがないのだ。
 薬局でスリ変えられたのでもなければ、二川家の邸内でスリ変えられたものでもないとすれば、医院から家へ持って帰る途中でスリ替えられたと考えるより他に仕方がないのだ。
 野村はハッと思いついて、部屋を出て、三度《みたび》千鶴を別室に
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