す習慣でしたので、少し心配になりまして見に行きましたのでございます」
「重武さんが見に行けといったのではなかったんだね」
「はい、市ヶ谷さまは何とも仰有いませんでした」
「それで、君が大声を上げると真先に重武さんが飛んで来られたのだね」
「はい」
「それからどうした?」
「市ヶ谷さまが、之は大変だ、直ぐ警察へ電話を掛けろ。誰も触っちゃいかんぞ、と仰有いました」
「警察へ――ふん、医者を呼べとはいわれなかったか」
「はい、その時は仰有いませんでした。後に太田さんを呼べと仰有いましたけれども」
重武は何故重明が死んでいるのを見て、医師より先に警察を呼べといったか。秘密にする必要があるとはいえ、親しいものにも通知をしなかった点、又、真先に部屋に飛び込んだ点など、疑えばいくらでも疑える事ではないか。
仮りに重武が薬をスリ替えたのだとすると、彼は残りの一服をどうかしなければならないのだ。それには太田医院の薬局にもないような新しく発見された猛毒が這入っているのだから、到底太田医院の調剤の過ちという事には出来ないのだ。彼は恐らく残った一服の内容をどこかへ明けて終《しま》って、重明が呑んで終ったよ
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