訳でござります。
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読み終って、野村は又もやドシンと頭を殴りつけられたような気がした。父の遺書を読んで以来、幾度か驚き、幾度か意外の感に打たれたが、数多い書類を読み進むほど、事件は益々奥深くなり、神秘性を増して、底止《ていし》する所を知らないのだ。
談話速記には尽《こと/″\》く仮名が使ってあるが、それが二川子爵家の出来事である事は、関係者にとっては余りにも明白だ。三十年も以前の事だと思って、不用意に述べられた談話は、どれだけ重明に打撃を与えたか、想像に余りあることだ。犯罪実話の語手《かたりて》の無責任な態度には、野村は少なからぬ義憤を感じた。
が、重武が唾棄《だき》すべき詐欺漢《イムポースター》であるとは! 無論確証はない。然し、野村には、そうであることが確かに感ぜられるのだ。さて、この談話速記によって、二川重明はどんな事を感じ、どんな事をしようとしたゞろうか。野村は第三と番号のつけてある、重明の遺書を取上げた。
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野村君、順序通り読んで呉れたと思う。そうして、君はまさか速記の切抜が、僕の家に関係した事であることを否定しはしま
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