懸命だしてな、私もあれからこっち、あんな激しい気性の女子《おなご》を見た事がおまへン。このおせいさんが、和武に会うて、偽者やったらとっちめてやるちゅうて、諾《き》かはりまへン。子爵家の人もとうとう折れて、和武に会わしたンだす。
 この会見の内容はちょっとも分りまへン。が、その結果、和武は訴訟をすっかり取下げました。それと同時に、和武は東京に永住することになって、子爵家に大手を振って出入するようになりまして、子爵家の事にあれこれと口出しをするようになりましたンや。
 何や、狐に魅《つま》まれたようなお話で、お聞き下さいましたみなさんは、物足らんように思われますやろが、私も実はけったい[#「けったい」に傍点]な気がしました。けンど、私は雇われたンで、成功したちゅうて、ちゃんと報酬も貰いましたし、訴訟も片づき、万事丸う治まったンで、もう之以上何ともしようがありまへン。
 話ちゅうのは之だけで、何や解決したようなせんような、歯痒《はがゆ》い事だすけンど、小説と違うて実話だすさかい、どうもしよがおまへン。けれども、鳥渡毛色の異《ちが》った、面白味のある事件やと思いましたンで、お話し申上げたような
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