い。実はこの速記を手に入れた時に、直ぐ君に相談しようと思ったけれども、君が頭から二川家に無関係であることを主張しやしないかと思って止めたのだ。僕はむろん速記を読み終るのと同時に、この談話の語手である刑事を探した。所が、なんと皮肉に出来ているではないか、彼は僕が探し当てた数日前に、脳溢血で死んでいるのだ! 最早僕にはこの話について、確めるべき人間は一人も残されていないのだ!
 僕が両親の実子でないこと、お清さんと呼んでいた乳母が実母であった事は、それほど僕を驚かさなかった。やっぱりそうだったかと、深い溜息をついただけだった。
 僕は物心のついた頃から、この疑惑に悩まされ続けていたのだ。それは、そういう事を経験した人でなければ、到底想像する事の出来ない苦しみだと思う。父母はどんなにか僕を熱愛して呉れたか。父は早く死んだけれども、母は長く僕を愛し慈《いつくし》んで呉れた。にも係らず、僕は絶えず他に父母を求めているのだ。この事については、最早長くは書くまい。
 叔父重武に関する秘密は、文字通り僕を驚倒させた。本当に僕は一時気が遠くなったほどだった。
 僕は以前から叔父に――といっても叔父その人
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