たら、お終いだす。それに恰度|雪崩《なだれ》の心配のおます時で、えらい時期が悪いのやそうです。そんな事を知らんと、むちゃくちゃに来たような訳で、飛騨の方へ降りる時は、全く何べん生命はないものと思うたかしれまへん。
飛騨へ降りる時には予《あらかじ》めうち合せて置いて、飛騨の人夫に変った訳だしたが、この人夫の口から、和武の事について、新しい事実を聞き出す事がでけ[#「でけ」に傍点]ました。それは何やいうと、こゝで和武の一行は遭難したんだンな。
和武の一行は頂上近くで、突然吹雪交りの雨に会うて、動けなくなったのだす。頂上から北平の雪渓の方へ鳥渡降りた所に、小屋がおましたので、一行はそこへ避難しました。すると、間もなく飛騨の方から人夫も連れずに、たった一人で登って来た男がありまして、小屋に飛び込んで来たそうだす。
一体野麦峠ちゅうのは、信州と飛騨との往還になっておりまして、当時は一日に二人や三人の旅人は通《かよ》ったもンだそうだす。で、そういう旅人は登山家とは違うて、別に人夫を連れたり、特別仕立の服を着たりしまへン。さて、晴れた日に野麦峠を通りますと、そこから乗鞍へは五時間ほどで行けます
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