いました。が、私がこいつは十分調べて見る価値があると思うたのは、深い馴染の女でのうては知れん身体の特徴の事で、花江と浜勇との話に、大きな食い違いがあることだした。どうも極《きわ》どい話で恐縮だすが、こんな所まで研究せんならん探偵ちゅう商売の辛い所と、苦心せんならん所を、お認め願いたい思います。
 そこで、私は和武が山から帰ってから二三年の間どこにどうしていたのか、そこに秘密があるに違いないと思うて、一生懸命に調べましたけンど、こいつが一向に分りまへん。結局山に登った前後の事まで突つめんならンようになって来ました。
 和武が二十三四の時に登った山ちゅうのは、乗鞍岳だした。いよ/\こゝへ行きかけた時に、私は泣きとうなりましたな。御承知の通り乗鞍岳は御嶽さんの南にある山だして、御嶽さんよりは鳥渡低いが、三千メートル上あります。北アルプスでは一番南よりの山で、割に登りよいのだそうだすが、どうして、年中雪のある山で、えらいこと、お話しになりまへん。何しろ、今から三十年も以前の話だすさかい、道は悪いし、途中に泊る小屋はなし、私は何の因果で、探偵になったのかいな思いました。南と北の新地で浮かれていた
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