な。尤も、賄《まかない》は向う持ちで、仕事の為なんだすからあきまへんけンど。
 すると、和武が南の新地に通い出したのは、この二三年のことで、山から帰ってから二三年ばかりは、先生はどこにどうしていたのか、さっぱり分りまへン。あれほど好きだった山登りもふっつり止めてることも発見しました。つまり、和武は山から帰ってから二三年ばかり、全然行方を晦《くら》ましているのだす。
 私はその秘密を探り出そう思うて、浜勇と照奴の間をせっせと往来しましたが、一番変に思われて来たンは、浜勇時代の和武と照奴の花江時代の和武とは、ころッと人が違うているのだす。というても顔や形が違うてる訳やないが、性質がえらい違うてます。花江の話では、和武は会うても口数の少い品のいゝ坊ちゃんやったのが、浜勇の所では、口前のえゝ、世馴れた旦那になっています。尤もその間に五年ほど経っていますさかい、年齢の関係でそう変ったのかも知れまへんが、もう一つ可笑しいのは、浜勇は執拗《しつこ》いいやらしい人やと眉をひそめてるのに、花江の話では、そういう事には、さっぱり冷淡やったいうのです。之も年齢の関係やいうたらそれまでだすが、私はどうも変や思
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