落着なくギョロ/\と動いて、一種異様な光を発し、絶えず何者かに怯やかされているようにビク/\しているのだ。
これらの症状は明かにひどい神経衰弱で、その行為にも言葉にも、別に甚《はなはだ》しい矛盾は現われなかったので、野村は幾分安心していたのだったが、乗鞍岳の雪渓を買占めて、発掘し出したという事になると、どうも発狂したのではないかと思わざるを得ないのだ。
真夏になっても消え残っている広さ数十町歩、深さ幾丈だか分らないような大雪渓を掘るという事は想像以上の難事業で、到底人間業では出来ることではないのだ。我国には正しい意味での万年雪というのはないそうであるが恐らくその辺の雪は数世紀間溶ける事を知らないでいるのだろう。千古《せんこ》の雪の下の神秘を探るという事は、人間に許されない事ではなかろうか。又、二川は神秘の扉を開いて、そこに何を見出そうとするのだろうか。
家人の反対も断乎として退け、唯一の友達の野村にさえその目的を洩らさないで、この無謀の挙を敢行する二川は、発狂したとしか野村には考えられないのだった。
第三の質問には、野村はこう答えた。
「うん、気違いじみているよ。だが、何か目的
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