だと思ったであろう。然し、野村は幸いに父の遺書の方を先に読んでいたので、重明のいう疑惑という言葉に、大体の当りがついていたので、彼(重明)はやはり彼自身の秘密を多少察していたのだな、と今更ながら、彼(重明)の背負されていた重荷について、同情したのだった。
野村は第二と番号をつけた印刷物を取り上げた。
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お歴々方の前でお話しするなんて、光栄の至りでございますが、馴れないことで、さっぱり上って終《しま》って、旨《うま》いことお喋りがでけ[#「でけ」に傍点]ない次第で、後でお叱りのないようにお願いいたします。只今御紹介下さいましたように、私は大体大阪のもんで、大阪の警察に永いこと勤めまして、辞《や》めてから、砂山探偵事務所に這入りまして、俗にいう私立探偵ちゅう奴で、名探偵などとは飛んでもない。全く見かけ倒しで、お話するような手柄話などはございまへ[#「へ」に傍点]ん。が、まア、取扱いました事件の中で、鳥渡《ちょっと》風変りな、奇妙な事件が一つありますンで、それを話させて頂きます。
恰度私が砂山さんの所へ這入ったばかりの頃で、今からいうと、二十二三年以前の事でござ
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