に係らず、悠《ゆる》りと、然し確実に僕の全身に拡がりつゝあったのだ。そうして、それが一年ほど以前に、俄然爆発したのだった。恐ろしい病気が現われた時に病気が発生したのではなくて、発生そのものは遠い以前にあって、適々《たま/\》何かの誘因で、それが突然現われるものであることは、多くの人の知っていることだが、僕のは全くそれなのだ。而《しか》も、それは恐ろしい業病《ごうびょう》なのだ。
僕の業病が何であるか、又何の為に君にこんな事を書き残そうとしたかを語る以前に、次の印刷物を読んで呉れ給え。之は或る社交倶楽部でなされた趣味講演の速記を印刷したもので、一般に販売されたものではない。僕は全く偶然に一年ほど以前に手に入れたものだが、あゝ、之こそ、僕の疑惑を固く包んだ結核を押し潰《つぶ》して、ドロ/\の血膿《ちうみ》を胸の中に氾濫させたものなのだ。
野村君、必ず順序を狂わせないで、読んで呉れ給え。先ず次の切抜の印刷物を読み、それから第三と番号のうってある僕の遺書の続きを読んで呉れ給え。
[#ここで字下げ終わり]
もし野村が突然この重明の遺書に接したのだったら、彼は恐らく重明がいよ/\発狂したの
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