っている彼は淋しがって、電話や手紙でよく来訪を求めた。野村も二川の友人の少いのを知っているので、三度に一度は彼の要求に応じて、訪ねて行く事にしていた。
大体そういった交友関係だったが、二川が突然変った事を始めたので、野村は悪友達の半ば嘲笑的な質問攻めに会わなければならなくなったのだった。
「オイ、お前《めえ》の華族の友達あ、日本アルプスの地ならしを始めたていじゃねえか」
「一体《いってえ》、雪を掘って、何にする気だい」
「お前《めえ》の華族の友達あ、気が違ったんじゃねえか」
こういった質問が代表的のものだった。
この三つの代表的質問のうち、第一は、意味のない単なるひやかしに過ぎないので、野村はたゞ苦笑を以って、報いるだけだった。
第二の質問には、やゝ意義があった。それはひやかしのうちに、幾分の好奇心を交えて、雪渓発掘の目的を訊いているのだった。
雪渓発掘の目的については、当の二川ははっきりした事をいわないので、憶測を交えた噂がいろ/\と伝えられた。或者《あるもの》は、鉱脈を掘り当てる為だといい、或者は温泉を掘る為だといい、或者は登山鉄道でも敷くつもりではないかといった。然し、
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