の視線を眩《まぶ》しそうに避けて、話したくない様子なのだ。仲直りをして早々《そう/\》、又気持を悪くさせてもいけないと思って、僕は直ぐ話題を変えた。
「弟はどうしている?」
「重武か」と、二川は吐き出すようにいって、「奴は相変らずだ。住所も定めずにうろつき廻っているが、感心に金だけはキチンと要求して来るよ」
「山登りを始めたというじゃないか」
「ウン、二三年来、日本アルプスとかいって、信州や飛騨の山を歩いているらしい。東京にいて女狂いや詐欺みたいな事をされるより勝《ま》しだと思っているんだ」
「そうとも、重武君もそうやって、登山なんか始めた所を見ると、性根が直ったのじゃないかね」
「駄目だよ。あの腐った性根は死ぬまで直りっこないよ。遇《たま》に神妙にしていると思えば、きっと何か企んでいるんだからね。僕はあれ[#「あれ」に傍点]が谷にでも落ちて死んで終《しま》えばいゝと思っているよ」
重武の話で、彼は又そろ/\不機嫌になって来たので、再び話題を転じて、毒にも薬にもならない世間話をしていゝ加減の所で切上げて来た。
帰りがけに彼は機嫌よく、
「又、ちょい/\来て呉れ給え。それから顧問弁護
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