」
「朝子は僕のいう通りになるよ。僕はあれ[#「あれ」に傍点]を幸福にしてやりたいと思ってするんだから」
「そういう事が幸福になるかどうか分らんよ。大抵はむしろ不幸に終るものだ」
こゝまでいった時に、僕は二川の顔色が次第に険悪になって、唇をブル/\と顫わせているのに気がついた。僕は了《しま》ったと思って、幾分|宥《なだ》めるつもりで、
「然し――」
といいかけたが、時既に遅かった。
二川の癇癪は猛然破烈したのだった。
「よしッ、君などはもう頼まぬ。今日限り絶交だッ」
僕はこうなっては負けていなかった。
「犯罪に加担しないといって、絶交されるのなら、むしろ光栄だッ」
二川は憤怒で口が利けなかった。(後で考えたのだが、よくこの時に心臓の故障が起らなかったと思う。あんなに怒らすのではなかった)
彼は猛然として、外へ飛出して行った。
彼が去った後、暫く気持が悪かった。
本当に之で絶交になれば、大へん淋しい事だと思った。
[#ここで字下げ終わり]
之で、この時の手記は終っていた。
次は一年半ばかり経った時の日記で、恰度野村達の生れる前後のものである。之で見ると、野村の父は前
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