たので、重武はそこで話を切上げて、その方に行った。
野村は屍体の安置してある部屋に行って、線香を上げたり蝋燭をつけたりして、お通夜を勤めることにした。
三
野村は翌朝家に帰ると、ひどく疲れていたので、何を考える暇もなく、グッスリ寝込んで終《しま》った。
正午《ひる》少し以前《まえ》に眼を覚して、食事をすませて、もう一度二川家へ行こうか、それとも鳥渡《ちょっと》事務所の方へ顔出ししようか、いっそ今日は休んで終《しま》おうかと迷っている所へ、母が這入って来た。
母はいつにない厳粛な顔をしていた。
「鳥渡《ちょっと》話したい事がありますがね」
野村は母の様子が余り真剣なので、思わず坐り直した。
「何ですか、お母さん」
「亡くなったお父さんのおいゝつけなんですが、もし二川家に何か変った事が起るか、それとも重明さんが亡くなった時に、儀作に之を渡すようにといって、書遺して置かれたものですが――」
といって、母は手に持っていた大きな厚ぼったい書類袋を差出した。
それには父の儀造の筆跡で、
[#天から4字下げ]二川家に関する書類
と書いてあって別に朱で「厳
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