秘」と書き添えてあった。
 野村は驚いてそれを受取った。
 母は多少その内容について知っているらしく、
「悠《ゆっく》りお読みなさい。今日は事務所へ出なくてもいゝでしょう」
「えゝ」
 野村の行っている法律事務所は、父が面倒を見たいわばお弟子の経営で、彼は無給で見習いをしているのだから、可成《かなり》勝手が出来るのだった。
「今日は休みますよ」
「そうなさい」
 といって、母は部屋を出て行った。
 野村は変に昂奮を覚えながら、書類袋を開《あ》けた。
 中には父の日記の断片と思われるものや、二川重行から来た書状や、告訴状の写し見たいなものや、報告書見たいなものが這入っていた。
 野村は一通り眼を通した後に、大略年代順に並べて見た。
 一番最初のものは、今から凡《およ》そ三十年以前のもので、重明や儀作の生れる二年ほど前の父の手記だった。

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 今日、二川重行が事務所に訪ねて来た。鳥渡待たしたといって、ひどく機嫌が悪かった。華族で金持で我まゝ育ちだから、実に始末が悪い。先代の重和という人も、気短かな喧《やか》ましい人だった。どうも二川家の遺伝らしい。
 用件はというと、
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