っぱり頭が変になった所為《せい》じゃないかと思っているんですが――」
「でも、何か目的があったんでしょうね」
「本人にはあったのでしょうね。然し、どうも正気の考えじゃありませんな」
「雪の中に何か埋《うずも》れてゞもいるような事を考えたのでしょうか」
重武はチラリと探るように野村の顔を見て、
「さあ」
「何か妄想を抱いたのでしょうね」
「えゝ、それに違いありません」
「乗鞍岳なんて、どこから考えついたのでしょう。むろん二川君は行った事はないと思いますが」
「地図を拡げて思いついたのでしょうよ。あれ[#「あれ」に傍点]は山と名のついた所へ行った事はありませんよ」
「そういえば」野村は又ふと思いついて、「あなたは若い頃旅行家だったそうですね」
「えゝ、旅行家というほどじゃありません。放浪ですな」
「中々登山をなすったそうじゃありませんか。アルプス方面では開拓者《パイオニア》だという事ですが」
「飛んでもない。物好きで、未《ま》だ他人《ひと》のあまり行かない時分に、登った事はありますが、パイオニアだなんて、そんな大したものではありません――鳥渡《ちょっと》失礼します」
恰度他の弔問客が来
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