太田医院に行って、貰って来る二日分を、きちんと二回に呑んでいたのだった。
 だから、重明の死因は太田医師の与えた催眠剤でない事は明白だった。然し、催眠薬は確かに呑んだ形跡があるから、恐らく、それと同時に取った他の毒薬の為に死んだものに違いないのだった。(無論自然死ではないのだ)二川家では過失で多量の催眠剤を呑んだ為かも知れないと、新聞記者に話したが、それは一つの体裁《ていさい》であって、過失という事は全然あり得ないのだった。覚悟の自殺という他はないのである。
「どういう毒物を呑んだのか、分りませんので、太田さんは解剖して見たらといっておられますがね、どうかと思っています」
 と、重武はつけ加えた。(之は後に警察側からの要求で、解剖される事になった)
「遺書はなかったのでしょうか」
 野村が訊くと、重武は眉をひそめて、
「えゝ、遺書らしいものは少しも見当らないんですよ」
「それは変ですね」
「全く。頭がどうかしていたんじゃないかと思われるんですが」
 野村はふと思いついて、
「そういえば、例の雪渓の発掘ですね。あれはどういう目的だったか、あなたはご存じありませんか」
「分りません。私はや
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