頂戴。うちの坊ちゃんはお友達が少いのですから、本当にいつまでも変らないでね」
と、しんみりとしていった。子供心にも、野村は何だか変な気持になった。
(あの乳母はどうしているだろう。本当に優しいいゝ人だった)
と、追憶すると共に、今までそれを思い出すこともなく、大して二川の力になれなかった事を、もう一度大へん済まないように思った。
二川家は大へん混雑していた。新聞記者らしい者が二三人詰めかけていた。流石《さすが》に家柄だけに、縁辺の人や旧藩の人達が多勢来ていた。
野村はむろん直ぐ通された。
彼が想像した通り、叔父の重武が万事采配を振っていた。
野村が通知されなかった事についていうと、重武は例の人を外らさない調子で、
「通知はどちらへもしませんでした。今見えている方は、みんな夕刊を見てお出《いで》になったのです。実は新聞の方も極力運動したんですが、どうも防ぎきれませんでした――」
そこで野村は委《くわ》しい話を聞く事が出来た。
今朝十時頃、いつもより眼覚めるのが遅いので、小間使の千鶴《ちず》が寝室を覗いて見ると、重明は半身を床《とこ》の外に乗り出して、両手を大の字なりに延
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