赤ン坊を育てて行く事が出来よう。夫にもしもの事があれば私はお父さんに合す顔がない。どうしよう。
 私は泣いて泣いて、流す涙も尽きて終った。精も根も尽き果てて終った。畳の上へどうとつっぷして終った。
 その時に思いがけなくガラリと格子が開いた。はっと起き上ると、案内もなしに一人の年とった紳士がぬっと這入って来たので、私は吃驚した。よく見ると、それが一度お目にかかった事のある夫のお父さんだったので、驚くまい事か、私は恥しさと恐しさとで、忽ち畳に頭を摺りつけて終った。
 お父さんは、ズカズカと夫の傍へ寄って、じっと痩せ衰えた顔と激しい息遣いを見て居られたが、お眼に涙が光っていた。
「えらい苦労をかけたのう。もう大丈夫じゃ。安心おし」
 思いがけなく、優しい言葉をかけられたので、私は耐らなくなって、わあと声を上げて泣いて終った。
「赤ン坊はここかな」
 こう仰有って、三畳の間の襖をガラリとおあけになって、部屋へ這入ると、お父さんはいきなり赤ン坊を抱き上げた。
「おお達者でいたか」とあやしながら私の方を向いて、「お前さんのお蔭じゃ。厚くお礼申しますぞ」と云われた。
 私は何が何やらさっぱり分らな
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