ていた貯えは、二週間のうちに費《つか》い果して終った。明日からはどうしよう。
 隣近所のおかみさん達はほんとによくお世話下さる。でもみんなそれぞれ自分達の子供や仕事があるのだ。況《ま》してお金の事など、どうして頼む事が出来よう。意気地のない私はお金を儲ける事などは無論のこと、借りに行く所さえないのだ。
 お父さんをお訪ねして、事情を申上げれば、可愛い息子さんの事ですもの、私は憎いかも知れないけれども(そうなれば私は身を引くばかりだ。意気地なしめ、涙なんか流す奴があるものか)、きっと何とかして下さるだろうと思った事は一度や二度じゃないけれども、もしや明日にも熱が下るかと空頼みをして、それにあれ程堅い決心をしていなさる夫に後で叱られる辛さに、今日までは歯を喰い縛って辛抱して来た。
 赤ン坊の親達はどうしていなさるだろう。一週間前に私立探偵社へ頼みに行ったんだけれども、今だに分らない。今更愚痴な事だけれども、せめてこの赤ン坊さえ預らなければ夫の世話も届くんだったのに。ああ思うまい。思うまい。みんな神様の覚召なんだ。
 でも、明日からどうしよう。お金がなくてどうして夫の病気を治す事が出来よう。
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