愛の為めに
甲賀三郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)縺毛《ほつれげ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)その外|継子《ままこ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き](「探偵文藝」一九二六年四月号)
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夫の手記
私はさっきから自動車を待つ人混みの中で、一人の婦人に眼を惹かれていた。
年の頃は私と同じ位、そう二十五六にもなるだろうか。年よりは地味造りで縺毛《ほつれげ》一筋ない、つやつやした髷に結って、薄紫の地に銀糸の縫をした半襟、葡萄の肌を思わせるようなすべすべした金紗《きんしゃ》の羽織、帯や着物など委《くわ》しい事は私に分らないけれども、それらのものが、健康を思わせる血色、撫でたような然し肉付の好い肩つき、楚々とした姿にすっかり調和して、ほんとうに私の好きな若奥さん型なのだ。もっと気に入った事は、抱いている赤ン坊が、生れて半年位かしら、女の子らしいが、頬べたが落ちそうに肥って、文字通り林檎のようで、自分の身体の三倍位の大きさの、眼の醒めるような派手な柄の友禅に包《くる》ま
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