だけですもの、働くのもいい加減嫌になるはずだけれども、先生は患者さんにはそれはご親切だし、前いったように、診察は名人だったから、なかなか流行《はや》ったわ。でもね、亡くなりなすった少し前から一層研究の方にお凝りになったので、自然患者さんも前程ではなかったようだったわ。ですから奉公人の数も、あたしの来た当座とは少し減ったの。診察所の方は薬剤師が一人と会計の爺さんとで、この二人は通い、その外に先刻《さっき》いった下村さんと内野さんの書生が二人。外に看護婦が二人。これは随分顔ぶれが変わったわ。しかし看護婦なんてものは起きてるうちは病人を豚の子かなんぞのように扱って、寝てしまえば自分が肥った豚みたいにグウグウ鼾《いびき》を掻いて、それこそ蹴飛ばしたって眼を醒ましやしないんだから、誰だって構やしない事よ。
奥の方はご飯たきが一人、奥様付きが一人、それにあたしが先生付き。ええあたしは旦那様とはいわずに先生っていってたの。ご飯たきはもういい加減の婆さんで、台所ばかりに居たし、奥様付きはお米さんといって、いっぺん嫁《かたづ》いた人であたしよりは十位年上でしょう。おとなしい人で、それに寝た切りの奥様に
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