手が出せないので、古田を秘密に呼び寄せて、割のよい報酬で訳させたのです。ところが古田が無断で家を出たものだから、留守宅で騒ぎ出すし、いろいろ物騒な話のあった頃で、世間も喧しくなりそうだったので、途中で一度帰したのです。二度目に古田が清水の宅で翻訳をしている時に、無電小僧――本人はこの名を大変嫌がっているのですが――という例の盗人が清水をねらって、例の銀行の通帳でおびき出して、留守宅へ入ると、思いがけなく古田が翻訳をやっていたので、ちょいとその原稿を失敬したのです。無論一部分でした。清水も用心して古田に少しずつ渡していたのです。そこで無電先生宅へ帰って読んでみると、なかなか面白いもので、次第によったら金になりそうなのです。それで様子を窺っていると、三度目に清水に呼ばれた時、古田の奴、狂言強盗で入りもしない泥坊に、ホンのちょっと掠《かす》り傷を負わされて、ひどい目に遭わされたように見せかけ、残りの原稿をすっかり自分の懐へ入れちゃったのです。新聞で無電小僧の仕業と書き立てたでしょう。そこで無電小僧が怒って、古田の宅へ侵入して彼を縛りつけて探したけれども、ちょっと原稿の在処《ありか》が分からな
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