います。第一には兇器たる文鎮には歴然と指紋があって、犯人が部屋中を捜索したと認められるにもかかわらず、他に同様の指紋が現れない事で、兇行後手袋をはめるという事はちょっと常識では考えられませぬ。つまり犯人が二人いたか、あるいは指紋が兇行前既についていたか――』
『そんな事はないわよ』あたし思わず下村さんにいったの。『だって先生はあの文鎮が錆《さ》びるのが心配で始終拭いてらしったし、あたしも毎朝一度はきっと拭くんですもの』
『私も下村君の説に賛成です』内野さんがいったの。『この本箱を探した男は明らかに余程背の低い男です。ご覧の通り下から出した本を積み重ねて踏み台にしています。清水さんなら、無論踏み台なしで届きましょう』
あたしは何だか二人で清水の加勢をしているようで憎らしかったわ。二人は清水の回し者かしらと思ったわ。だって清水はあんなに先生を苦しめた奴じゃありませんか。何も弁護するに当たらないと思うわ、清水はひっつった死面《デスマスク》のような顔を二人の方に向けて、眼で拝んでいるようだったわ。
『文鎮の長さはどれ位でしょう』下村さんがあたしの思慮《おもわく》などお構いなしに聞いたわ。
『
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