約一尺という事じゃが』検事さんの答え。
『もっと委《くわ》しく知りたいのです』
刑事ってんでしょうか、清水の傍にくっついていた人は渋々巻き尺を出して計ったわ。
『十一インチ四分の三』
『えっ、間違いはありませんか。大丈夫ですか――内野君』内野さんの方を向いて『君とほら、二、三日前にあの文鎮の長さの賭けをしたろう、君は長さを覚えているかい』
『十一インチ八分の七』内野さんがきっぱり答えたわ。
各自《めいめい》考えていたんでしょう。しばらく誰も口を利くものがなかったわ。あたしも考えて見たんだけれども何の事かちっとも分からなかったわ。下村さんは沈思黙考《ちんしもくこう》という形、内野さんはゴソゴソ本箱の辺で何やら調べ始めたようでした。
『文鎮を削って見て下さい』下村さんが突然叫び出したのであたし吃驚《びっくり》したわ。
下村さんのいう事がもっともらしいので、お役人もいう通りに削って見たけれども、やっぱり中までニッケルだったの。下村さんの考えは鍍金《めっき》じゃないかと思ったのでしょう。
『中までニッケルですか』がっかりしたようにいってまた腕を組んで考え出したわ。
そうすると今度は内野
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