盗難の届けの出ていた所だから、たちまち爺さんは警察へ突き出されちゃったの。何べんもいうようだけれど、爺さんは欲張りで、倹約《けんやく》だなんて大金持ちの癖に、いつでも薄汚い身装《なり》をしているもんだから、何とか議員だって警察には通じやしないわ。それでとうとう一晩|拘留《こうりゅう》させられたのよ。痛快じゃないこと、ところが泣きっ面に蜂というのは爺さんが警察に宿《とま》っている晩に、無電小僧に入られたのよ。この事は新聞に出なかったんだけれども、訳があってあたしは知ってるの。郵便受けの中へ銀行の通帳を入れたのも無電小僧の策略だったんだわ。ほんとにいい気味ったらありゃしない。
あたしはほんとにこの爺が嫌いで仕方がなかったんだけれども、月のうちに一、二度はきっと宅《うち》へやって来るのよ。そうしちゃ診察所の帳面を調べたり、書生さん達やあたしに用をいいつけたり、そりゃ横柄なの。先生はあんな優しい方でしょう。黙って平気で見ていらっしゃるんでしょう。あたし歯掻《はが》ゆくって仕方がなかったわ。あたし馬鹿ね。一年もご奉公しながら、なんで清水の業突張りがこんな事をするのか分からなかったの。男はやはり
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