ることには馴れてゐる。尠くともお酒が這入つてゐれば、淡白といふか愚かといふか、人が体面を慮《おもんばか》つて遠慮するていのことくらゐは、ても眼中にないのである。
私はそこで、『貴方が弟を到底助からないと信じていらつしやることを知つた後では、看護婦でもいい、卑しい女でもいい、ええ、つまり卑しい女の方がいい、ともかく何等かの点で弟が好きになる女と、忽ち結婚させたかつた』とも云ひ、『どうせ死ぬと、仮令《たとへ》分つてゐても、患者に云ひ聴かせることはお願ひですからやめて下さい。』とも云つた。
すると医者はまた、例の悟りを参照しようとするから、『いいえ、それは間違つてゐます。諦めが大事であるとはいへ、諦めがつかないことが直ちに愚かであるとは申せません。此の世に乞食はゐるものだといふことが真でも、では若干は乞食もゐるやうにすべき理由はないのと同じことでございます』と、死んだ弟を思へば、弟が身を以て感ぜしめられた事を種に、私はまたなんたる狂態だらうと、かにかくに自責の情が湧くのでもあつたが、独りゐては、あれやこれやと迷ひ夢みる私であれど、人に対しては男性的といふか論理的といふか、思ひ切りよく理性
前へ
次へ
全21ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中原 中也 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング