亡弟
中原中也

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)此の先《さき》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)猶|一縷《いちる》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「月+俘のつくり」、第4水準2−85−37]腫《はれもの》

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ホラ/\と
−−

 ああ、もう、死んでしまはうか……
 自分の正直さが、といふよりも歌ひたい欲望が、といふよりも酔つてゐたい性情が、強ければ強いだけ、〈頭を上げれば叩かれる〉此の世の中では、損を来たすこととなり、損も今では積り積つて、此の先《さき》生活のあてもなくなりさうになつてゐることを思ふと、死んでしまはうかと思ふより、ほかに仕方もないことであつた。
『どうせ死ぬのなら、僕は戦争に行つて死ぬのならよかつた』と、病床の中から母に語つたといふ、一昨年死んだ弟のことを思ひ出しては、いとほしくて、涙が流れるのであつた。――苦しい受験生活の後で、漸
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