壺の中には冒涜を迎へて。

雨後らしく思ひ出は一塊《いつくわい》となつて
風と肩を組み、波を打つた。
あゝ なまめかしい物語――
奴隷も王女と美しかれよ。

     卵殻もどきの貴公子の微笑と
     遅鈍な子供の白血球とは、
     それな獣を怖がらす。

黒い夜草深い野の中で、
一匹の獣の心は燻《くすぶ》る。
黒い夜草深い野の中で――
太古《むかし》は、独語も美しかつた!……


この小児

コボルト空に往交《ゆきか》へば、
野に
蒼白の
この小児。

黒雲空にすぢ引けば、
この小児
搾《しぼ》る涙は
銀の液……

     地球が二つに割れゝばいい、
     そして片方は洋行すればいい、
     すれば私はもう片方[#「もう片方」に傍点]に腰掛けて
     青空をばかり――

花崗の巌《いはほ》や
浜の空
み寺の屋根や
海の果て……


冬の日の記憶

昼、寒い風の中で雀を手にとつて愛してゐた子供が、
夜になつて、急に死んだ。

次の朝は霜が降つた。
その子の兄が電報打ちに行つた。

夜になつても、母親は泣いた。
父親は、遠洋航海してゐた。

雀はどうなつたか、誰も知
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