まだみぬ 顔の 不可思議の
咽喉《のんど》の みえる あたりまで……
午睡の 夢の ふくよかに、
野原の 空の 空のうへ?
うわあ うわあと 涕《な》くなるか
黄色い 納屋や、白の倉、
水車の みえる 彼方《かなた》まで、
ながれ ながれて ゆくなるか?
夏の夜
あゝ 疲れた胸の裡《うち》を
桜色の 女が通る
女が通る。
夏の夜の水田《すいでん》の滓《おり》、
怨恨は気が遐《とほ》くなる
――盆地を繞《めぐ》る山は巡るか?
裸足《らそく》はやさしく 砂は底だ、
開いた瞳は おいてきぼりだ、
霧の夜空は 高くて黒い。
霧の夜空は高くて黒い、
親の慈愛はどうしやうもない、
――疲れた胸の裡を 花瓣《くわべん》が通る。
疲れた胸の裡を 花瓣が通る
ときどき銅鑼《ごんぐ》が著物に触れて。
靄《もや》はきれいだけれども、暑い!
幼獣の歌
黒い夜草深い野にあつて、
一匹の獣《けもの》が火消壺《ひけしつぼ》の中で
燧石《ひうちいし》を打つて、星を作つた。
冬を混ぜる 風が鳴つて。
獣はもはや、なんにも見なかつた。
カスタニェットと月光のほか
目覚ますことなき星を抱いて、
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