きり
ひと泣き泣いて やつたんだ。

あゝ、怖かつた怖かつた
――部屋の中は ひつそりしてゐて、
隣家《となり》は空に 舞ひ去つてゐた!
隣家は空に 舞ひ去つてゐた!


六月の雨

またひとしきり 午前の雨が
菖蒲《しやうぶ》のいろの みどりいろ
眼《まなこ》うるめる 面長き女《ひと》
たちあらはれて 消えてゆく

たちあらはれて 消えゆけば
うれひに沈み しとしとと
畠《はたけ》の上に 落ちてゐる
はてしもしれず 落ちてゐる

       お太鼓《たいこ》叩いて 笛吹いて
       あどけない子が 日曜日
       畳の上で 遊びます

       お太鼓叩いて 笛吹いて
       遊んでゐれば 雨が降る
       櫺子《れんじ》の外に 雨が降る


雨の日

通りに雨は降りしきり、
家々の腰板古い。
もろもろの愚弄の眼《まなこ》は淑《しと》やかとなり、
わたくしは、花瓣《くわべん》の夢をみながら目を覚ます。

     *

鳶色《とびいろ》の古刀の鞘《さや》よ、
舌あまりの幼な友達、
おまへの額は四角張つてた。
わたしはおまへを思ひ出す。

     *


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