紅殻色《べんがらいろ》の格子を締めた!

さてベランダの上にだが
見れば銅貨が落ちてゐる、いやメダルなのかア
これは今日昼落とした文子さんのだ
明日はこれを届けてやらう
ポケットに入れたが気にかゝる、月は※[#襄をくさかんむりにした字]荷を食ひ過ぎてゐる
灌木がその個性を砥《と》いでゐる
姉妹は眠つた、母親は紅殻色の格子を締めた!


青い瞳

1 夏の朝

かなしい心に夜が明けた、
  うれしい心に夜が明けた、
いいや、これはどうしたといふのだ?
  さてもかなしい夜の明けだ!

青い瞳は動かなかつた、
  世界はまだみな眠つてゐた、
さうして『その時』は過ぎつつあつた、
  あゝ、遐《とほ》い遐いい話。

青い瞳は動かなかつた、
  ――いまは動いてゐるかもしれない……
青い瞳は動かなかつた、
  いたいたしくて美しかつた!

私はいまは此処《ここ》にゐる、黄色い灯影に。
  あれからどうなつたのかしらない……
あゝ、『あの時』はあゝして過ぎつゝあつた!
  碧《あを》い、噴き出す蒸気のやうに。

2 冬の朝

それからそれがどうなつたのか……
それは僕には分らなかつた
とにかく朝
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