紅殻色《べんがらいろ》の格子を締めた!
さてベランダの上にだが
見れば銅貨が落ちてゐる、いやメダルなのかア
これは今日昼落とした文子さんのだ
明日はこれを届けてやらう
ポケットに入れたが気にかゝる、月は※[#襄をくさかんむりにした字]荷を食ひ過ぎてゐる
灌木がその個性を砥《と》いでゐる
姉妹は眠つた、母親は紅殻色の格子を締めた!
青い瞳
1 夏の朝
かなしい心に夜が明けた、
うれしい心に夜が明けた、
いいや、これはどうしたといふのだ?
さてもかなしい夜の明けだ!
青い瞳は動かなかつた、
世界はまだみな眠つてゐた、
さうして『その時』は過ぎつつあつた、
あゝ、遐《とほ》い遐いい話。
青い瞳は動かなかつた、
――いまは動いてゐるかもしれない……
青い瞳は動かなかつた、
いたいたしくて美しかつた!
私はいまは此処《ここ》にゐる、黄色い灯影に。
あれからどうなつたのかしらない……
あゝ、『あの時』はあゝして過ぎつゝあつた!
碧《あを》い、噴き出す蒸気のやうに。
2 冬の朝
それからそれがどうなつたのか……
それは僕には分らなかつた
とにかく朝
前へ
次へ
全40ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中原 中也 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング