年間芝居というものを見なかった私は、随分進歩も変化もしたことだろうと思って出かけたところが、不思議なことにも芝居の中はやはり昔のままの姿で見物人は私の父と同じ真似をしていた。芸妓が何かたべながらわさわさとしていて、舞台では十幾年前と同じ役者が同じ顔をして同じせりふを申し上げていた。私は芝居の国では地球は回転しないのかと思った。
芝居だけは十年位、欠席していても決して時代に遅れないのだという自信を私は得たものである。なるほどこの芝居なら、せめて何か食いながらでなくては見ていられないかも知れない。芝居見物というのはあの狭い桝の中で家族親類は懇親を結び、芸妓は旦那と、男は女と、懇親を結ぶ場所であり、そして舞台では余興をやっていると見る方が本当かも知れない。
その代り舞台では、いかに名人といえども見物人が背を見せて勝手な話に耽り、勝手にめしを食い酒を飲んでいるのだから、今必要なせりふを申し上げましょうと思っても、少しも見物人へ通じないのだから、まったく何をする張り合いも抜けてしまうことだろう。かくして役者と見物人はお互いに殺し合うのではないかと思う。
以来私は時々それでも芝居は見に行く。
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